本記事で扱う5つのポイント(目次)

  1. 貸すと「空き家の3,000万円特別控除」が使えなくなる場合がある
  2. 「普通借家」と「定期借家」、どちらで貸すか
  3. リフォーム費用は家賃で回収できるか
  4. 名義と共有者の同意を整えておく
  5. 貸したあとの管理と税金の手間を見込んでおく

あわせて、実家を貸すことに関するよくあるご質問もまとめました。「まだ貸すと決めたわけではない」という段階でも、判断材料として参考にしていただければと思います。

なぜ「とりあえず貸す」が後悔につながりやすいのか

私たちは京都市伏見区・山科区を中心に、不動産と建築、両方の仕事に携わっています。実家を相続された方からは、「売るか残すか決めきれないので、ひとまず貸して家賃をもらいたい」というお声を多くいただきます。空き家のまま置いておくよりも、人が住んでいる方が建物は傷みにくく、固定資産税などの維持費を家賃でまかなえるという考え方は、決して間違いではありません。

一方で、「とりあえず」のつもりで貸し始めた結果、思わぬところで困ってしまうケースもあります。たとえば、数年後に売ろうとしたら入居者に退去してもらえなかった、貸していたために税金の特例が使えず売却時の税負担が大きくなった、リフォームに費用をかけすぎて家賃収入では回収できなかった、といったものです。

貸すことは、売ることと違って「長く続く関係」の始まりです。始める前に全体を見渡しておくことで、将来の選択肢を狭めずに済みます。

1. 貸すと「空き家の3,000万円特別控除」が使えなくなる場合がある

最初に知っておいていただきたいのが、税金の特例との関係です。相続した実家(被相続人の居住用家屋)やその敷地を売却したとき、一定の条件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。いわゆる「空き家の3,000万円特別控除」です。

国税庁の案内では、この特例の要件のひとつとして、相続のときから売却のときまで、事業の用、貸付けの用、居住の用に供されていたことがないことが挙げられています。つまり、相続後に実家を一度でも賃貸に出してしまうと、その後に売却しても、この特例の対象外になる可能性が高いということです。

この特例は、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなど、ほかにも細かな条件があり、相続人の人数によって控除額が変わる場合もあります。「何年か貸してから売ればよい」と考えている方ほど、貸す前に一度、売った場合と貸した場合の税金の違いを確認しておくことが大切です。具体的な適用の可否は、税理士など専門家にご確認ください。

💡 ポイント:「いずれ売るかもしれない」なら先に試算を

将来的に売却の可能性が少しでもある場合は、貸す前に「今売った場合」と「数年貸してから売った場合」の手取り額を比べてみることをおすすめします。家賃収入の合計よりも、特例が使えなくなることによる税負担の差の方が大きくなるケースもあります。

2. 「普通借家」と「定期借家」、どちらで貸すか

住宅を貸すときの契約には、大きく分けて「普通借家契約」と「定期借家契約(定期建物賃貸借)」の2種類があります。どちらを選ぶかで、将来実家を取り戻したり売ったりする際の自由度が大きく変わります。

普通借家契約と定期借家契約の比較

項目普通借家契約定期借家契約
契約の更新原則として更新される期間満了で終了(再契約は合意があれば可能)
貸主からの解約「正当事由」が必要で、簡単には認められない期間満了により終了できる
契約の方法口頭でも成立する書面での契約と、事前の説明書面の交付が必要
賃料の傾向相場どおりに設定しやすい条件によっては相場よりやや低めになりやすい
向いているケース長く貸し続けるつもりの場合将来売る・住む可能性を残したい場合

※ 一般的な傾向を整理したものです。定期借家契約では、期間が1年以上の場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に終了の通知が必要になるなど、手続き上の決まりもあります。詳しくは国土交通省の案内や専門家にご確認ください。

普通借家契約で貸した場合、入居者が住み続けたいと希望すれば、貸主側の都合だけで退去してもらうことは難しくなります。「子どもが将来住むかもしれない」「数年後には売るかもしれない」という場合は、定期借家契約を検討する価値があります。

3. リフォーム費用は家賃で回収できるか

築年数の経った実家をそのまま貸せるケースは多くありません。水まわりの設備交換や内装の張り替え、雨漏りの補修など、入居者を募集できる状態にするまでに、数十万円から数百万円の費用がかかることが一般的です。

たとえば、リフォームに300万円をかけて、家賃7万円で貸すとします。年間の家賃収入は84万円ですが、ここから固定資産税や管理費、修繕の積立、空室期間などを差し引くと、手元に残る金額はもっと少なくなります。単純計算でも、リフォーム費用を回収するまでに5年前後、条件によってはそれ以上かかる計算です。

京都市伏見区・山科区には、旧耐震基準(1981年5月以前の建築確認)の木造住宅や、道幅の狭い場所に建つ住宅も少なくありません。人に貸す以上、建物の安全性への配慮も欠かせず、耐震面の補強まで考えると費用はさらに増える可能性があります。不動産と建築の両方の視点で、「どこまで直せば貸せるのか」「その費用は回収できるのか」をセットで考えることが大切です。

賃貸契約と収支計画のイメージ

4. 名義と共有者の同意を整えておく

実家を貸す前に、登記の名義が今どうなっているかを確認しておきましょう。亡くなった方の名義のままでは、賃貸借契約や管理会社との契約の場面で手続きが進めにくくなることがあります。2024年4月からは相続登記が義務化されていますので、貸すかどうかにかかわらず、名義の整理は早めに進めておくと安心です。

また、兄弟姉妹などで実家を共有名義にしている場合は注意が必要です。共有の不動産を貸すときは、賃貸の期間などによって、共有者の持分の過半数の同意で足りる場合と、共有者全員の同意が必要になる場合があるとされています。家賃の受け取り方や、修繕費の負担割合も含めて、事前に話し合って書面に残しておくと、後々のトラブルを防ぎやすくなります。法律上の判断が関わる部分ですので、詳しくは司法書士や弁護士にご確認ください。

5. 貸したあとの管理と税金の手間を見込んでおく

貸し始めたあとは、入居者からの連絡対応、設備の故障時の修理手配、家賃の入金確認、退去時の立ち会いなど、さまざまな管理業務が発生します。遠方にお住まいの方や、お仕事が忙しい方は、管理会社に委託するのが一般的で、その場合は家賃の一定割合が管理委託料としてかかります。

また、家賃収入は不動産所得として、原則として確定申告が必要になります。固定資産税や修繕費、減価償却費などを必要経費として計上できる場合もありますが、どこまでが経費になるかは個別の判断になります。初めて申告する場合は、税理士や税務署に確認しながら進めると安心です。

なお、京都市では空き家などに課税する新しい税(非居住住宅利活用促進税)の導入が予定されています。人に貸して住まいとして使われていれば状況は変わり得ますが、課税の対象や開始時期の詳細は、京都市の最新情報でご確認ください。

実家を賃貸に出す前のチェックリスト

  • 将来売却する可能性があるか、3,000万円特別控除との関係を確認したか
  • 普通借家と定期借家のどちらで貸すか決めているか
  • リフォーム費用の見積もりと、家賃での回収見込みを試算したか
  • 建物の耐震性や雨漏り・傾きなど、安全面を確認したか
  • 相続登記を済ませ、名義が整理されているか
  • 共有者がいる場合、貸すことや家賃・費用の分け方に合意しているか
  • 管理を自分で行うか、管理会社に任せるか決めているか
  • 確定申告など、税金の手続きを誰が行うか決めているか
▶ 今日からできる一歩の例

まずは「売る」「貸す」「しばらく管理して残す」の3つの選択肢について、5年後・10年後に手元にいくら残るのかをざっくり並べてみてください。建物の状態とリフォームの概算、周辺の家賃相場が分かれば、比較の精度はぐっと上がります。

Q&A:よくあるご質問

Q1. 貸したあとでも、空き家の3,000万円特別控除は使えますか?

A. 国税庁の案内では、相続のときから売却のときまで貸付けの用に供されていたことがないことが要件のひとつとされているため、一度でも貸した場合は対象外になる可能性が高いと考えられます。個別の状況によって判断が異なることもありますので、貸す前に税理士へご確認ください。

Q2. 古い実家でも借り手は見つかりますか?

A. 立地や建物の状態、家賃設定によって大きく変わります。駅やバス停からの距離、駐車場の有無、水まわりの状態などが影響しやすいポイントです。京都では町家や古い戸建てに魅力を感じる方もいらっしゃるため、必ずしも築年数だけで判断できるわけではありません。周辺の賃貸需要を確認したうえで判断することをおすすめします。

Q3. 定期借家契約にすれば、いつでも退去してもらえますか?

A. いいえ、契約で定めた期間が満了したときに終了するという仕組みです。期間の途中で貸主の都合により自由に解約できるわけではありません。また、期間が1年以上の場合は、満了前の所定の期間内に終了の通知が必要です。将来の予定に合わせて、契約期間を慎重に決めることが大切です。

Q4. リフォームせずに、そのままの状態で貸すことはできますか?

A. 現状のまま貸す方法もあり、借り手が自分で手を加える前提の契約が検討されることもあります。ただし、貸主には建物の修繕義務があるのが原則で、契約内容によって負担の範囲が変わります。安全面に問題がないかの確認は欠かせませんので、契約条件とあわせて専門家に相談しながら進めると安心です。

Q5. まだ貸すかどうか決めていませんが、相談してもいいですか?

A. もちろん大丈夫です。決めていない段階だからこそ、売る・貸す・残すの選択肢を比べる意味があります。建物の状態を確認したうえで、リフォームの概算や想定される家賃、売却した場合の見込み額などを並べてご提案することができます。

まとめ:「貸す」は将来の選択肢まで見据えて決める

相続した実家を賃貸に出すことは、建物を活かしながら維持費をまかなえる、有力な選択肢のひとつです。一方で、空き家の3,000万円特別控除が使えなくなる可能性や、契約の種類による退去のしにくさ、リフォーム費用の回収、共有者との合意など、始める前に確認しておきたいことがいくつもあります。

大切なのは、「とりあえず貸す」ではなく、5年後・10年後にこの実家をどうしたいのかを考えたうえで、貸し方を選ぶことです。売る場合・貸す場合・残す場合を並べて比較することで、ご家族にとって納得のいく判断がしやすくなります。

▼ まとめ・ご相談ください

実家を貸すかどうかは、税金の特例、契約の種類、リフォーム費用、共有者の合意など、さまざまな要素を合わせて判断する必要があります。京都で不動産と建築の両方に携わる私たちが、建物の状態の確認から、売る・貸す・残すの比較まで一緒に整理いたします。
ご不明な点は、TSC HOME|トスクホーム(株式会社京都アシスト)までお気軽にお問い合わせください。相続・空き家に関するご相談は、初回60分まで無料です。

※ 本記事は一般的な考え方の整理を目的としたものであり、個別の税務・法律判断を保証するものではありません。税制の特例、契約に関する法律、京都市の制度は変更される場合がありますので、具体的な手続きについては専門家へ個別にご相談ください。

参考・引用元

※ 本記事中の制度・法律に関する情報は執筆時点のものです。最新情報は各公式サイト・担当窓口にてご確認ください。

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