境界標が見つからないことだけを理由に、その家がすぐに売れなくなるわけではありません。ただし、土地の範囲や越境物の扱いが不明確なまま工事や売買を進めると、費用や日程、買主との認識に影響することがあります。大切なのは、すぐに高額な測量を発注することでも、問題を先送りすることでもありません。まず資料と現地の状況を整理し、何を決めるためにどこまで確認する必要があるのかを見極めることです。

本記事で扱う内容(目次)

  1. 境界標が見つからないことと、境界が分からないことは同じではありません
  2. 最初に集めたい資料は三つです
  3. 京都の古い住宅地で確認しておきたい三つの場面
  4. 測量は必ず必要?売却前に判断したいこと
  5. 売る・直す・貸す・残す・解体する――境界の状況で判断はどう変わる?
  6. 隣地の所有者と意見が違うときはどうする?
  7. 相談前に作っておきたい「境界確認メモ」

境界標が見つからないことと、境界が分からないことは同じではありません

境界標は手がかりですが、それだけで結論は出せません

土地の角にある金属プレート、コンクリート杭、石杭などは、境界を示す重要な手がかりです。しかし、古い住宅地では工事や舗装によって標識が隠れたり、破損・移動したりしていることがあります。反対に、見つかった標識が現在の登記上の筆界を正しく示しているかどうかも、周囲の資料と照らして判断する必要があります。

たとえば、長年使われてきたブロック塀の位置が、そのまま法律上の境界と一致するとは限りません。塀を新設する前に隣地との境界を調べた資料が残っている場合もあれば、工事の便宜上、所有地の内側に塀を設けた場合もあります。「塀があるから大丈夫」「杭がないから売れない」という二者択一では考えないことが重要です。

「筆界」と「所有権界」は区別して考えます

登記された一筆の土地を区画する公法上の境界は「筆界」と呼ばれます。一方、当事者が所有権の範囲として認識する線は「所有権界」と呼ばれ、両者が一致しないこともあります。隣地所有者と話し合って所有権の扱いを整理することと、登記上の筆界を特定することは、同じ作業ではありません。法務省は、この区別と筆界特定制度について説明しています。

境界の疑問が生じたら、当事者だけで「この辺でよいでしょう」と目印を打つのではなく、資料を集めたうえで必要に応じて土地家屋調査士などの専門家に相談します。

最初に集めたい資料は三つです

1.登記事項証明書と地図・公図

登記事項証明書では地番、地目、登記地積、所有者などを確認します。法務局に備え付けられた地図や地図に準ずる図面(一般に公図と呼ばれるもの)は、周辺の土地との位置関係を調べる入口です。ただし、図面の作成時期や精度は一様ではなく、図上で定規を当てれば現地の境界が確定するものではありません。

住居表示の住所と登記上の地番は一致しない場合があります。資料を取り寄せる際は、まず対象地番を確認しましょう。

2.地積測量図と過去の境界確認資料

地積測量図が法務局に備え付けられていれば、土地の形状、辺長、求積方法などを確認できる場合があります。ただし、古い土地には地積測量図が存在しないこともあり、図面がある場合も作成年代や記載内容の精度を確認する必要があります。

売買契約書の添付資料、以前の測量図、境界確認書、隣地立会い記録、建築時の配置図などが家の書類箱に残っていないか探してください。すべてを捨てず、原本は保管し、調査に使う際は複写を用意すると安心です。

3.現地写真と隣地・道路との関係

敷地の四隅と思われる場所、塀、フェンス、擁壁、雨樋、軒、配管、植栽、通路を写真に残します。道路との接点も重要です。京都の住宅地には、敷地が細かく分かれ、狭い通路や私道に接する土地もあります。境界の調査と道路種別・接道条件の確認は別の論点ですが、売却や建替えを考える際には一緒に整理した方が効率的です。

家族と担当者が庭先で境界付近をメジャーで確認している様子

京都の古い住宅地で確認しておきたい三つの場面

塀や雨樋が隣地に近い場合

塀の基礎、屋根の軒先、雨樋の先端、室外機の架台などが境界付近にある場合は、越境の有無を推測だけで判断しないことが大切です。見た目では数センチの差が分からないことがあります。越境が確認された場合も、撤去・是正の可否や時期、売買契約での説明方法などを個別に整理します。

昔から使っている通路や私道がある場合

敷地の出入りに使っている通路が自分の所有地とは限りません。通行や掘削に関する権利・承諾、道路の管理者、建築基準法上の道路種別などは、境界とは別に調べる必要があります。京都市は2026年3月18日から「京都市地図情報提供サービス」を運用し、位置指定道路の指定図などの閲覧・印刷を可能にしています。ただし、このサービスの地図は個々の土地の境界を確定するものではありません。対象物件の資料として使うときは、表示情報の利用上の注意を確認してください。

庭木・石積み・古い擁壁が境目にある場合

樹木や石積みは、長い時間の中で形状が変わることがあります。特に敷地に高低差がある場合、境界の位置と擁壁の所有・管理責任を混同しないよう注意が必要です。補修や撤去に入る前に、境界資料と現況を照らし合わせ、必要なら構造面も確認します。

測量は必ず必要?売却前に判断したいこと

すべての売買で確定測量が義務になるわけではありません

土地の売買で確定測量が一律に法律上必須というわけではありません。既存資料の状況、買主の希望、金融機関の条件、取引の形態、境界をめぐる懸念などによって必要性が変わります。現況のまま取引するケースでも、何を確認できていて何が未確認なのかを説明し、契約条件を明確にすることが欠かせません。

測量を先に実施した方が買主の不安を減らせることもあれば、先に売却方針と想定買主を検討し、その後に調査範囲を決めた方が合理的なこともあります。実家の建物が古いからといって、すべての費用を先に投じることが最善とは限りません。

「現況測量」と「境界確認を伴う測量」を混同しない

現況測量は建物や塀など現地の形状を把握する目的で行われます。一方、境界確認を伴う測量では、資料調査や隣接地所有者との立会いなどが必要になることがあります。名称だけで依頼内容を決めず、「何を成果物として受け取るのか」「どの境界について確認を行うのか」を見積時に確認しましょう。

期間や費用は、土地の形状、隣地の数、資料の有無、立会いの状況などで大きく変わります。全国共通の定額費用を前提に予算を組まない方が安全です。測量に着手する前に、買主や不動産会社が必要としている情報と、工事業者が必要とする情報を区別しておくと、過不足のない調査につながります。

地積測量図や公図などの資料を机に並べて確認している様子

売る・直す・貸す・残す・解体する――境界の状況で判断はどう変わる?

売る:価格だけでなく説明の透明性を考える

売却では、境界に関する資料が整理されているほど、買主が敷地の利用計画を立てやすくなる可能性があります。ただし、測量費用をかけた分だけ必ず売却価格が上がるとは限りません。古家付き土地として売るのか、建物を使いたい買主を想定するのか、事業者に買い取ってもらうのかによっても調査の優先順位が異なります。境界不明の事情を隠さず、取引条件を比較しましょう。

直す:境界付近の工事は先に確認する

屋根や内装など敷地境界から離れた工事と、塀・外構・排水設備など境界付近に手を入れる工事では、必要な確認が異なります。隣地に近い外壁や足場の設置も、作業範囲の確認が必要です。工事の内容を先に決めるより、どの位置で何をするのかを図面と現地で整理してから見積もる方が、後戻りを減らせます。

貸す:入居者の利用範囲と管理責任を明確にする

賃貸に出す場合は、庭、駐車場、通路、物置など、入居者が使える範囲を明確にします。境界未確認の箇所があるなら、貸主側で把握しておく必要があります。賃貸化の収支を考える際は、修繕費だけでなく境界調査費や外構整備費も含めて検討します。家賃収入が得られても、管理上の懸念が解消しない場合は慎重に判断しましょう。

残す:将来の相続人に情報を引き継ぐ

すぐに活用しない場合も、境界の手がかりを写真と書類で残しておくことに意味があります。隣人とのやり取りを記録し、境界標と思われるものを勝手に移動させないよう家族で共有しましょう。今すぐすべての測量をする必要があるかは、管理状況と将来計画を踏まえて判断します。後継者が現地に通えない場合は、定期的な管理の仕組みも併せて検討するとよいでしょう。

解体する:建物を壊す前に塀・杭・越境物を確認する

解体工事では、建物だけでなく付属物や外構をどこまで撤去するかが問題になります。境界標が塀の近くにある場合、撤去工事で失われるおそれがあります。境界を確認しないまま塀や石積みを壊すと、後で位置を復元しにくくなることもあります。解体業者への発注前に、撤去対象と残すものを写真や図面で共有してください。

隣地の所有者と意見が違うときはどうする?

最初から対立と決めつけない

隣地の方も過去の資料を持っていないだけかもしれません。まず、古い図面や境界標の位置について情報を整理し、事実関係を確認することが大切です。一方的に境界を主張したり、相手の立会いを強要したりすることは避けます。家族や仲介担当者だけで解決しようとせず、土地家屋調査士等に相談することも検討してください。

筆界特定制度という選択肢もあります

話し合いが難航した場合、法務局の筆界特定制度を検討できることがあります。これは登記上の筆界の位置を明らかにするための制度であり、所有権の帰属を直接決める制度ではありません。状況によっては訴訟や他の法的手続きが必要になる場合もあります。利用の適否、時間、費用は専門家や管轄法務局に確認してください。

京都地方法務局は、古い地図と現地が一致しない場合があることを説明し、精度の高い地図を作る事業も進めています。古い公図だけで断定しない姿勢が重要です。

相談前に作っておきたい「境界確認メモ」

一枚にまとめると相談が進みやすくなります

住所と地番、登記名義人、相続登記の状況、敷地のおおよその形、境界標が見つかった場所、見つからない場所、塀・軒・樹木などの気になる箇所、保管している図面の種類、希望する活用方法、いつまでに判断したいかをまとめます。現地写真には撮影方向を記載しておくと説明しやすくなります。

このメモは境界を確定する書類ではありません。しかし、不動産会社、土地家屋調査士、建築士、解体業者にそれぞれ何を相談すべきかを整理するために役立ちます。

所有者が担当者と資料を見ながら境界や今後の活用について相談している様子

Q&A:よくあるご質問

Q1. 境界杭が一つも見つかりません。売却はできませんか?

A. 境界標が見つからないだけで売却が一律に不可能になるわけではありません。ただし、買主が必要とする確認内容や契約条件によっては調査が求められます。資料と現況を整理してから、売却方法を比較することをおすすめします。

Q2. 公図の線とブロック塀の位置が違うように見えます。どちらが正しいですか?

A. 見た目や公図だけで判断することはできません。公図の精度、測量図の有無、境界標、過去の経緯などを確認し、必要に応じて土地家屋調査士に相談します。

Q3. 隣地の所有者が遠方に住んでいる場合、測量はできませんか?

A. 直ちに不可能とは限りませんが、連絡や確認に時間を要する場合があります。依頼する専門家に事情を伝え、必要な手続きや日程を確認してください。

Q4. 解体して更地にしてから境界を調べた方がよいですか?

A. 先に解体すると境界標や位置の手がかりが失われる可能性があります。撤去範囲と境界の関係を確認してから工事を計画する方が安全な場合があります。

Q5. 境界の調査は不動産会社と土地家屋調査士のどちらに相談すべきですか?

A. 売却方針や買主との条件整理は不動産会社、筆界や測量の専門的調査は土地家屋調査士が中心になります。建物や塀の工事が関わる場合は建築の視点も必要です。役割を分けて連携することが大切です。

まとめ:境界が不明な実家は、売り方を決める前に情報を整理する

相続した実家の境界に不安があっても、最初から「売れない」「測量しなければならない」と結論づける必要はありません。登記・図面・現地を確認し、境界の不明点が売却、修繕、賃貸、保有、解体のどの判断に影響するのかを整理します。必要な調査は、その後に決めても遅くない場合があります。

トスクホーム(株式会社京都アシスト)では、建築と不動産の両面から、実家の現況と活用方針を整理するご相談を承っています。すぐに売却や工事を決める必要はありません。資料がそろっていない段階でも、分かっていることと未確認のことを一緒に整理するところから始められます。

参考・確認資料(2026年10月21日確認)

※ 制度の適用や境界の判断は、個々の土地の資料・現況によって異なります。

この記事に関するご相談はこちら

TSC HOMEでは、相続・空き家に関するご相談を初回60分無料で承っております。「境界杭が見つからない」「資料がそろっていない」といった段階でのご相談も歓迎です。

無料相談のお申込み